【灰鷹のサイケデリカ】鷹と狼が争う街の暮らし

閉ざされた冬。

「それは、破滅に隠された優しい愛の物語」
……だそうです。隠されたというか、埋もれてしまったというか……優しいだけが愛ではないと最後には突きつけられるとこもあり、何かその…………とにかく街の暮らしに和みました!!変に口ごもってるのは“愛”に関して思うところがあるからなんですが、物語の結末は納得のいく潔さや顛末で面白かったです。
鷹(ファルジ)の一族と狼(ヴォルグ)の一族と称される二つの勢力が牛耳る街で魔女の証とされる赤い右瞳をした少女が性別を偽って男として暮らしてたら、カレイドヴィアという宝物を捜索するうちに街と自身の秘密を知り──という物語。既に魔女狩りの危険を察するあらすじ。魔女狩り自体勿論怖いのですが、それが行われる集団意識の歪みや古い道徳観念が真に恐ろしいものなんだなあ……と一時の危険を回避した後も継続される“日常”に震えました。逃げたところで原因を解決しなければ何も改善されない。そして主人公も全てが“日常”だとしてすっかり受け入れてしまう。そんな歪みも完全に幸せな結末として書かれているのが怖い。主人公も街の一部でしかない感じ、当然と言えば当然だけど怖いな……ただ一つの正しい選択を選べるかどうか、凄い厳しくて……
怖いな~と怯える原因の中世風の時代や世界観も街の素朴な暮らしや服装はとても魅力的で、マスカレードと呼ばれる祭りの時にみんなが着る衣装はどれも本当~に素敵です!最高にテンション上がった!春が訪れない冬の街なのでみんなずっと着込んでるのも可愛い。とにかく街を身近に感じるためかメインキャラ以外のモブの人たちも顔グラや声がしっかり付いていて、名も無き人をまたあの人だ!とかあの人こんな雰囲気なんだ~と知れるのも楽しい。中には顔グラ表示されない程の悪人もたまにいて、この街何人ぐらい住んでるのだろうと想いを馳せたり。あと春が来ないから食料の備蓄マジでどうなってるんだろう……と心配。この街の一番の謎、食料の出所。

主人公のジェド/エアルには顔グラと声、名前呼びもあって主人公ではありますが一人のキャラクターの様に物語を楽しめます。メインキャラ達が何度も色々な調子で名前呼んでくれるの控え目に言って最高ですね~~それに返事するジェドの様々な声色も。女である事を隠さなければならないジェドを最初の方は見てるのがつらかったけど、後半で正しい選択を積み重ねて解放を望む決意と行動の強さを知れた時は有り難う~~!!と歓声を送りました。
恋愛対象はラヴァン/レビ/ルーガス/隠しの4人と少なめで、恋愛としても環境が厳しくてこれが優しい絶望か……と吹雪が吹き荒ぶ心持ちで見守りました。厳しい。バレを伏せて印象。
繋げ護る男ラヴァン→狼の一族の次期当主。穏やかで親切な態度で民に接するため好感度は高く、ジェドも頼りにする兄貴分。でも心にはそれなりに激情を抱え持って隠していて、強引に事を運ぶことも。理性を失わない強行もまた凄まじい。ジェドに迫ったかと思えば引いたり、謎の押し引きに翻弄されました。
断罪する男レビ→ラヴァンの弟。お調子者な明るい青年。彼は狂気に蝕まれる事になりますが、ジェドへの愛は攻略対象達の中で一番純真だと思われる。字が綺麗で本を読むのが好きだったり、そういう一面が発揮される話読みたい~~運命の前には無力すぎる役割で哀れ。でもほんとジェドへの親愛、一番好感。
追い求める男ルーガス→鷹の一族当主の息子。冷徹な態度が威圧感を与えるものの、実際は大体不愛想に見えるだけ。恐らく彼の決意する事を躊躇わない行動がジェドに影響を与えて運命が為されたのだろうと考えると胸熱。ジェドは狼側なのでエアルとして会う事が多く、唐突に惹かれあう二人が止められない運命と同じで趣深い。
攻略制限が解除されると隠しキャラも出ます。灰鷹の重要人物なのですが、重要どころか優しい絶望を更に優しく絶望も希望も無い物語として語られます。凄い!!ヤバい!!永遠に灰鷹!!

『黒蝶のサイケデリカ』の続編とだけあって黒蝶と共通する設定やキャラが沢山出てきます。サイケデリカと聞いた時はすごく舞い上がって元気になれました。発売順の黒蝶から灰鷹の順にやったり、時系列的に灰鷹から黒蝶をやっても面白いと思います。現にとても黒蝶をやり返したくなりました。あれとかこれとかそれとか考えて、なるほどね~!?と納得したい。

以下、個人的に今作で最重要人物だと思われるフランシスカについて書いておきます。ひたすらしんどい!!という纏め。話は決意して運命を遂行すればスッキリ!なんですが、フランシスカと攻略対象達との恋愛は……現代社会にも通じる悲しさだよね……

フランシスカ中心にネタバレ

ジェド/エアルの母であるアリアが魔女として殺され、オルガが乱心しエイプリルが死んだ全ての騒動の原因となったフランシスカについて!どうしても感想が!!言いたい!!
作中でもフランシスカの育ちや信念が語られて、起こるべくして起こってしまったことだと十分に説明されていますが言外にあり中々語られてない事実として、中世の価値観と女性蔑視が根強いな……と思いました。これはフランシスカだけでなくジェド/エアルの恋愛エンドにも言えることで、女性の権利が尊重されていない環境を“普通”だと誰もが判断して暮らしています。現フランシスカの立場は当主代理であり当主として認められていない事や、過去に政治的判断で嫁入りした事から鷹の一族として、兄の支えとしての誇りだけを頼りにしていたフランシスカには全てが屈辱だったのではないでしょうか。頑張っても個人として認められない。家から自由にもなれない。役に立つには男に媚びるしかない。当主の男達は女を孕ませるだけでのうのうと幸せに浸かり、全ての誇りを奪っている癖に……という報われない辛さがあったと思わざるをえません。作中ではアリアへの嫉妬ばかり強調されますが、それは女だから活躍できない自分の人生に絶望しているフランシスカの内面化されたミソジニーだと思いました。子供を孕んで嬉しそうなアリアという“女”の姿がとても見ていられなかったのでしょう。その嫌悪が魔女という不安を煽る印象的な言葉と共に蘇り、あの様な扇動を巻き起こした。フランシスカに限らず魔女狩りの根底には女性蔑視があります。この悲しい破滅は女性蔑視が根深い時代と街だからこそ起きたことで、世界が解放されない優しい絶望ではそれを思い知らされるのです。
右側に集まってて可愛い。

最後に可愛い場面を紹介して場を和ませます。状況はシリアスそのものなんですが窓から下を覗くために全員右側に立ち絵が集まってるのが良いですね。さりげなくジェドを囲んでるし。灰鷹は状況によって立ち絵がよく動くのがとても面白く、フランシスカが料理中に包丁をトントンと動かしてる時も立ち絵が音に合わせて揺れているのが特に可愛かった。背面や振り向きの立ち絵が多いのも見どころ。

サイケデリカシリーズまたやりたいね!とカレイドヴィアに願う日々、始まる。

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