
あの『Papers,Please』を作った製作者チームが開発・販売する『Return of the Obra Dinn』。レトロなゲーム画面に加えて力強く印象に残るサウンドに心惹かれつつ、謎解きミステリーということでネタバレ見る前にクリアしたいな~と思い4年過ぎた今。ようやくオブラ・ディン号に何があったかを知る時が来ました。
1802年にロンドンから出港した商船オブラ・ディン号が消息不明になり、その5年後に英国の港に突如姿を現したオブラ・ディン号の船内を保険調査官が直接調査するところから物語は始まります。小舟を横に付けて単独で乗り込む調査官が既にすごい。誰も居ない船が心細くて、職務放棄して一刻も早く帰りたくなりました。しかし謎の懐中時計と明らかにオブラ・ディン号船医からの手記を受け取った手前すぐ逃げ帰るわけにもいかず、亡骸の死の瞬間を一つ一つ辿っては手記を埋めていくしかないミステリーアドベンチャー。
……ところでプレイする前はミステリーというジャンルもあり、こんな大勢の乗船者たちが次々とヤバい思惑で裏切り合って破滅するのかな!?とか想像していたのでまさか物理的なホラー災害で大壊滅とは思わず、そこが意外でした。酷い裏切りはほんの一部。でも一部の裏切りが商船全体を破滅させる契機になったり、圧倒的な災害を前に勇敢に戦ったり或いは逃げたり疑心暗鬼になったり解決しようとして乱闘になったり、皆それぞれの狂瀾っぷりを見られるのがとても良くてミステリーという仕組みよりも彼らの熱いドラマの方が印象に残りました。

※ここからそこそこネタバレ!
にしても最初乗船者リスト見た時は60名!?!?無理では!?!になりました。なにせ画面は1bitな上に全く知らない人たちの顔が並びしかも死に際の瞬間しか見られずその時の発言も誰が言ったか推測するしかない。とりあえず手記を送ってきたヘンリー・エバンズ医師の生存は確認しつつ、わからないなりにひたすら死の瞬間を追う。すると最初は誰!?だったのが段々見慣れてきて、服装から職名顔立ちや言語で出身地を推測して半数以上の乗船者を確定するまでに。ピーターズ兄弟がリストだと番号離れてるの何でだろう。大体おじさんばかりですが乗客にレディーもいて、どっちの方がエミリーっぽくてどっちがジェーンっぽいか……と勘だけで記入しておく適当戦法でも手記は3名ごとに正解記述を確定してくれるので結構進んでくれて大助かり。遺体が見えなかったり失踪扱いは大体海に落ちたり捨てられてるっしょ!!という大雑把推理、楽しい。最後まで影が薄かったジョージ・シャーリー氏、なんか良い。死因悩んだのはズンギ・サーティとジョン・ネープルズ。ネープルズは特定難易度低いはずが、会話の流れを勘違いしていて理解が遅れましたね……フィリップ・ダール、どうした?? ラウ・ホクセンの処刑では時が止まった場面ならではの利点がありつつ、ヘンリー・ブレナンのブレなさが光っていましたね。ブレナンだけに。
死の瞬間だけ見られるといっても周りをうろちょろ歩けるので、他の船員たちがどんな行動してるのかがわかるのが何といっても楽しい。エドワード・ニコルズが小舟の底で丸まってるのを見た時は失笑した。全ての元凶、サー・ニコルズ。彼の最期はあっけないものの確実にオブラ・ディン号を壊滅させる元凶だしヌーツィオ・パスクアやラウ・ホクセンに限らず複数名の乗客及び乗組員を犠牲にしてて本当……すごかったですね……あと牛の死に対し嘔吐したチャールズ・ハーシュティクがその後勇敢に立ち向かったの本当熱い。台詞がかっこいいことに定評があるウィンストン・スミスに並ぶ勇ましさ。
大勢の色々な死因を見るのが1bitとはいえ割としんどいんですが、雷に打たれて死亡したリ・ハンの稀有さと人魚の尾にしばかれて死亡したトーマス・セフトンは何か面白かった。画家のエドワード・スプラットがトイレ中に怪物にやられるのも呆気ない。酷い死にざまだな……と思うのはクリスチャン・ウォルフやマバ。あとエーミル・オファレルが中々に印象的。
一番乗船者の中で好きなのはリム様の従者であるシア・イトベン。ラウ・ホクセンの処刑の際もリム様に声をかけ、最期の瞬間までリム様を呼び続けている。しかも何か貝殻で謎のパワーを使ってる。何物!?私はシア・イトベンの死因を焼死にしましたがほんと謎ですね、あれ。人智が及ぶ死因じゃなくない!?死に際に他の人物を心配する人物としてアルフレッド・クレスティルもいて、あの”Where is my Frenchman?”の台詞で数々の調査官の心を奪ったことは間違いないと思います。チャールズ・マイナーLOVEじゃん……
そんなこんなで、何かフォルモサの民から貝殻盗もうとした悪人があろうことか人魚を捕獲して船に積み込んだせいで怪物が船に乗り込んできて乗船者が大勢死んだ上に残った人たちも貝殻と人魚を巡って争い合っても~大変!船長の心もまいっちんぐ!な事の顛末が知れて大変面白かったです。ヘンリー・エバンズ医師とマーティン・ペロットのことはもうちょっと色々考えたいな~~~あとスケッチでは陽気そうに描かれたフィリップ・ダールの事も気になる。色々一早く危機を察しはしても先走って失敗するタイプだったのかな……と死因からして思う。
開発当初は120人登場する予定だったと聞いて、この倍死の瞬間を見るのはしんど~という気持ちともっと見たいな~という気持ちが争う。一区切りで進められるタイプではなく、一気に全体像を掴みたい感じの作品なので120人一気に見たら一週間ぐらい寝不足になる気がする。オブラ・ディン号の乗船者たち全員と顔見知りになった気分になれる『Return of the Obra Dinn』、そこには様々な人間の生きざまが在りました……